『飛ぶ教室』を読んだ後、ケストナーについていろいろ情報を仕入れているうちに、児童文学ではない作品を読みたくなって、タイトルに惹かれて、これを図書館で借りてみた。
くだらない……と言ってしまうと失礼だが、たあいのない話。
ザルツブルクが舞台なのだけど、まさに『フィガロの結婚』とか、いや、もっと小体な、オペレッタにでもありそうな話。訳文はいかにも古めかしいが、むしろふさわしい雰囲気を醸し出している。
原題とはまったく違う「一杯の珈琲から」という洒落た邦題のつけかたも、昔の映画みたいでよい。最後のオチも気が利いている。
『飛ぶ教室』と違って、これが世界に存在しなくてもたいした損失にはなるまいが、愛すべき佳品。好きだなぁ、こういうの。
(書影は東京創元社のサイトより拝借)