久世光彦『ベスト・オブ・マイ・ラスト・ソング』(文春文庫)

和田静香さんのnote→小泉今日子(朗読)/浜田真理子(歌・ピアノ)『My Last Song』を経由して、この本を手に取った。

第二次世界大戦で命を落とした将兵を「美しい日本の山河を護るために、死んでいった」と捉えるような戦時下への郷愁や、読んでいるこちらが恥ずかしくなるような旧態依然としたジェンダー観は、実に産経文化人的な印象で、ちょっと辟易するほどである(それも無理からぬ話で、何しろ初出は「正論」での連載なのだ)。そういう思想と相容れなさそうな小泉/浜田へとつながっていくのが不思議なくらい。

とはいえ、もちろん、私にとっても琴線に触れる楽曲が取り上げられている章もたくさんある。

なかでも、小泉/浜田のCDに収録されていなかったせいもあって意表を突かれたのが、「おもいでのアルバム」という曲。本文中に引かれた歌詞を目にするなり、即座に頭の中でそのメロディが流れ始めた。実際に自分が歌ったとすれば50年以上前。その後何かの折りに耳にすることがあったとしても…いや、そうそう接する機会はない歌だし、いずれにせよ、物心つく前のはずだ。そもそも、タイトルさえ記憶になかった。というより、知らなかった。そんな歌が、歌詞を示されただけで脳裏に再現される。そのこと一つをとっても、歌というのは不思議なものである。

さて、私が「マイ・ラスト・ソング」に選ぶとしたら、何の歌だろう。実はMy Funeralと題したプレイリストはあるのだけど、これは、もし自分を偲んでくれる人がいるとすれば、そのあたりの曲と共に覚えていてほしいという話であって、自分が臨終の際に聴いていたいというのとはちょっと違う。

ところで著者の一曲は、結局これと決まったのだろうか。急逝だったようだから、実際にはそれを聴きながら、というわけにはいかなかったかもしれないが…。

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