宮本勝浩『「経済効果」ってなんだろう?』(中央経済社)

最近だと大阪万博について「経済効果○兆円」みたいな試算が喧伝されているのは皆さんご存知のとおり。そもそも経済効果って何なのよ、と思って、お手軽にWikipediaを覗いてみると、関西大学名誉教授の宮本勝浩という人が、イベントなどの経済効果の試算を数多く手掛けているようだ。すると、この人の著書を読めば、経済効果の何たるかが分かるのではないか。

そう思って検索すると、『「経済効果」ってなんだろう?』という、そのものズバリの初学者向け啓蒙書があるようなので、さっそく読んでみた。

袖の部分に、

「ザックリこれくらい」「だいたいこんなもの」「このくらいはあってほしい金額」、なんて思っていませんでしたか。

実は、詳細なデータにもとづいて、かなり緻密に計算されているのです。

とある。

読み始めると、「はじめに」に、

私たちは、その数字を見れば、みんなが楽しく、元気になり、日本全体、地域そして業界が活性化するような経済効果の計算をするように心がけている。

とある。むむむ。そうすると「経済効果」というタームが出てくると、必然的に景気のいい話ばかりになるのではないか。

本編に入ると、その印象はますます強まる。阪神タイガースの優勝がもたらす経済効果を試算する例のところで、

また、阪神の優勝で、巨人や他の球団のファンの消費が代替的に減少するので、それらのマイナスの経済効果も考慮すべきであるとの批判も考えられたので、巨人ファンの多い関東地域や、中日ファンの多い東海地域のマイナスの経済効果は推計せず、阪神ファンが圧倒的に多い近畿地域の経済効果のみに分析を限定した(本書24ページ)。

とある(ちなみに2012年刊行なので、今回のタイガースの優勝ではない)。

えええええ! 「との批判も考えられた」のであれば、その批判に耐えうるような分析を行わなければダメなのに、まさにその批判を裏付け強化するようなことをやってどうするの(笑)

まぁこのへんですでに「このくらいはあってほしい金額」でしかないのだなぁということは容易に想像できるのだが、それ以外にも、首を傾げたくなる部分は随所にある。

たとえばAKB48の経済効果の節で、

AKB48の直接効果の推定額は約240億~300億円であるので、その平均値270億円をAKB48の直接効果と考えることにする(本書49ページ)。

とある。この著者は「平均」の意味を理解しているのだろうか。

大阪マラソンの経済効果の節では、冒頭に、

計算の結果、約124億円の経済効果があることが立証された(本書114ページ)。

とあるのだが、読み進めていくと、その「計算」とは「…と仮定する」「…と推定された」の積み重ねである。「立証」と称するには、誰もが同意する確かな根拠から論理的に導くべきではないか。

また、何を経済効果として加算していくかという選択もきわめて恣意的である。たとえばダルビッシュのレンジャーズ入団による経済効果の節では、レンジャーズがダルビッシュに支払った契約金まで経済効果に算入されている。しかしこれは、「ダルビッシュ入団」という出来事を実現するためのコストではなかろうか。

かように、要するに「経済効果」とは、まさに袖に書かれた「このくらいはあってほしい金額」そのもので、まともな経済学的・数学的素養すらない人が、恣意的に情報を選択し、希望的観測に徹して積み重ねた無意味な数字であることが分かる。

まぁ、こんな本を読まなくても、おおかたそんなものであろうと察している人は多いだろうが、人柱として最後まで読んでみた次第である。

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