アンディ・ウィアー『アルテミス(上)(下)』(小野田和子・訳、ハヤカワ文庫SF)

アンディ・ウィアーは、大ヒット(でもないか?)SF映画『オデッセイ』の原作である『火星の人』の著者。新作『プロジェクト・ヘイル・メアリー』も好評のようなので読みたいのだけど、文庫化を待ちたいところ。前作の本書も読んでいなかったので、こちらを先に読むことにした。

『火星の人』(原作は実は未読)は、ロビンソン・クルーソー的な、絶対不利な状況に1人残された主人公が知恵を絞ってサバイバルを図る内容だったが、『アルテミス』は月面に作られた街を舞台に多くの登場人物が交錯するSFアクションで、地球とは違う環境条件という点を除けば、趣はまったく違う。意図的なものだと思うが、主な登場人物は、みな国籍・人種・民族を異にしている(もちろん主人公とその父親は共通だが)。何より面白いのが、「いい計画はぜんぶそうなのだけど、この計画もクレイジーなウクライナ人の男がいないと成立しないのだった」と主人公に言わせているところで、著者はアメリカ人なのだが、アメリカ人から見たウクライナ人というのはそういう位置付けなのだろうか?

もちろんネタバレになるのでストーリー展開には触れないが、けっこう身勝手で、用意周到のようで見落としが多く、「やっちまった」感が強い主人公の魅力は捨てがたい。父親や保安官、街のトップである統治官、対立しているようで協力してくれる飲み友達(ある事情で不仲になった)、そしてもちろん、いいSFはぜんぶそうなのだけど、やはりこの小説を成立させるにも不可欠だったオタク色の強いエンジニアなど、脇役も魅力的である。

翻訳もまぁ悪くない。地の文が突然「ですます」調に変化して読者に(?)語りかけるようになるのは、悪い工夫ではないと思う。街のトップや主任科学者、そして主人公と、重要な役どころは女性なのだが、語り口がいわゆる女性語尾になってしまっているのはどうにかならないものか、と思うが…。あと、あまり上品な主人公ではないので罵倒語も頻出なのだが、そういうのの翻訳は難しいんだよな…。

そうそう、『火星の人』も読みたいなぁ。

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