岡嶋裕史『思考からの逃走』(日本経済新聞出版、kindle版)

この著者については、自分はすでにファンと称してもいいくらいに気に入っている。

タイトルは言うまでもなくエーリッヒ・フロム『自由からの逃走』のもじりと思われる。

間違いや失敗を恐れる傾向が強まると、人は自分で判断することを避けるようになる。かといって、他人=他の人間による評価にももちろん間違いや失敗の可能性は付きまとうし、そもそも恣意性や偏見がたっぷり含まれる人間の判断に重要な意志決定を委ねる気にはなれない。だったらむしろ、AIに判断を委ねる方が…。

そういう人がリアルに増えている状況に対する、多面的な分析。

テクノロジー系の著者なので、AIに対してかなりフェアな見方をしているのがこの本の良いところ。引用・参照したい論点は実にたくさんあるので、ひとつひとつ言及はできないのだが、オススメの本である。

この本に欠けている視点というか、物足りない点があるとすれば、AIが常に「単数」で捉えられているように思えるところだろうか。人間の思考に代わって判断・評価を下すAIが並列的に複数存在している状況は当然ありうるわけだし、ではどのAIの判断を採るのかという点で、また人間の選択という要素が復活してくるような気もするのだが。

 

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