サン=テグジュペリ『人間の土地』(堀口大學・訳、新潮文庫)

だいぶ前に買ったはずだが会社に置きっぱなしになっていたのが目についたので、持ち帰り、読む。

美しく、人間への愛情に溢れた作品。どこかで聞いたことのあるようなフレーズは、そうか、これが出典だったのか、みたいなのもちらほら(「愛するということは、お互いに顔を見あうことではなくて、一緒に同じ方向を見ることだと」本書p216)。

若いうちに読んでおくほうが良かったかもしれないが、私の年齢で読んでも得るものは大きいように思う。

堀口大學訳はさすがに古めかしくて、これを読み切れない人は今どき大勢いるに違いない。とはいえ、恐らく原文もかなり詩的なものと想像されるので、詩の翻訳で名を馳せた人の訳というのは、ふさわしいのかもしれない。そもそも戦前の人の文章なのだ。新訳であまり読みやすくなってしまい、逆に時代的な距離感がなくなってしまうのも心配である。

とはいえ、さすがにね…。個人的には池澤夏樹に訳してもらいたい感じだ。光文社古典新訳文庫の渋谷豊・訳はなかなか悪くないようだ。ひとまず読んでみたいという人は、そちらで読む方がいいのではないか。

ただこの新潮文庫版は、表紙と巻末の地図、それに解説を宮崎駿が担当している。彼のファンは敢えてこちらを選んでもいいのかもしれない。

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