近藤史恵『サクリファイス』(新潮文庫)

別の本を読み始めていたのだけど、ツール・ド・フランス開幕ということもあって、家人が同じ著者のサイクルロードレースもので最も新しい(といっても3年前か)『スティグマータ』を読み始めたのに刺激されて、シリーズの最初の作品であるこれを手に取った。再読か、再々読か。

最初に読んだときは、「ミステリとしては大したことはないが、サイクルロードレース観戦への入門書として、これほど優れたものはないのではないか」という感想を抱いたように記憶している。

その印象は再読しても変わらなかったのだが、何だか今回はえらく心に響く感じが強かった。展開や結末を知っているからとか(実際には私の記憶は、まったく別の著者の小説と混ざっていた)、続編を読んだことで主人公への感情移入が高まっているというわけでもないと思うのだが…。初読のときは特にどうとも感じなかった高校時代の失恋エピソードも、今回は妙に泣けた。単に私が年を取ったということなのかもしれない。年を取ることで、以前は感動できなかった本に感動できるとすれば、それはとても幸福なことだろうと思うのだけど。

それにしても、サイクルロードレースにおける「アシスト」という視点を選んだのは、著者にとって、たいそう豊かな鉱脈を探り当てたと言ってもいいのではなかろうか。

当然ながら、続いて『エデン』へ。

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