ポール・オースター『最後の物たちの国で』(柴田元幸訳、白水Uブックス)

職場で「やみくろ」の話が出る(←どんな職場だ)

それがキッカケで後輩が『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を再読し始めて、『最後の物たちの国で』を連想した、という。

ふむ、それは読んだことがないので読んでみよう。

と、軽い気持ちで読み始めたら、えらくハードなディストピア小説でびっくりしてしまった。

書かれた時期(原著の出版は1987年)からして、ソ連末期あたりにヒントを得ているのかなとも思うが、まさに今日この日も、内戦の続くシリアやイエメンといった国々では、これがフィクションと呼べないような状況があるのだろうな、と想像する。訳者が「あとがき」で触れているように、オースターはこの作品が「近未来」を舞台にしていると思われるのを望んでおらず、「現在と、ごく最近の過去についての小説」だと主張しているのも、そういう意味なのだろう。残念ながらオースターから見て「近未来」でもあった、ということになってしまっているわけだが。

訳者が言及しているデフォー『ペスト』や、Fama『サラエボ旅行案内』にも興味を惹かれる。

作品の内容とは関係ないが、字が小さい。老眼という点では平均よりも進行が遅いような私でさえ、ディストピア小説で字が小さいのって何の拷問だよと思ってしまうが、けっこう慣れるものだな……。

 

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