ジョージ・ボージャス『移民の政治経済学』(岩元正明・訳、白水社)

確かTwitterでどなたかが勧めていたのが気になり、読んでみた。最初、体裁だけ見て荷が重いかと思ったのだが、意外にすらすら読めてしまった。あとがきによれば一般向けを意識して書いた本とのことなので、そのせいもあるのだろうけど、やはり移民というのはそれ自体がダイナミックなテーマなので、著者の主張への賛否はともかくとして、引きこまれるものがある。

で、自らがキューバからの移民一世である著者は、「移民はすべての人に利益をもたらす」という移民受け入れ推進の論調に疑義を呈し、その結論を導くデータの選択や解釈に恣意性があることを明らかにする。

こうした批判から、必然的に移民がもたらすコストや、国内での格差拡大(※)を相対的に強調することになり、その流れでドナルド・トランプの選挙演説で著者の論文が引用されてしまったこともあるようなのだが、著者の真意はそこにはないし、移民排斥や人種差別・民族差別につながるようなトランプの政策とはむしろ正反対の立場とも言える。

※ 著者は、移民による経済的メリット/デメリットは長期的には差し引きゼロのように思われるが、企業経営者/労働者のあいだで’(前者に有利な形で)富の再配分が生じるとしている。

移民政策には困難で回避できないトレードオフがあり、そうしたトレードオフは専門家による数式モデルや統計分析だけでは測れないものだ。結局、どのような政策を選ぶかは我々の価値観や米国という国がどうあるべきかに対する我々の信念、そして自分たちの子供にどのような国に住んでほしいかという思いに左右される。(本書p220)

欧州の移民問題にごくわずかな言及がある程度でほぼ100%米国の話であり、日本の外国人労働者問題とはだいぶ違った状況とも言えるのだけど、とはいえ、移民問題一般を考えるうえで有益な一冊であることは確かだろうと思う。

 

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