完結まであと2巻というこの段階に来て、う~む、やはりこれは凄い作品だと思えるようになってきた。
時間論・存在論という意味で、先日読んだフッサールの哲学に関する本あたりと共鳴しあう感じ(実際、さらにその前に読んだ『時間とはなんだろう』には確かこの作品への言及もあった)。
そういう非常に扱いにくいテーマを、難解な概念とか七面倒くさい論理展開を使わずに、小説の主人公による経験という文学/芸術表現で一挙に実感してしまおう……というより、それこそが文学/芸術なのである、というのが作者の立場なのだろう。
で、本巻のクライマックスでは、そういう主人公(本来、作家志望である)の悟りが縷々語られ、読者にとっては、ここに至るまでが長かっただけに、非常に感動的。
……とはいえ、ここまで延々と読んでこないと「これ」に到達できないというのは、普通の読者にとっては辛いよなぁ、とも思う(笑)
うむ、この悟りから出発して、できればその精髄を表現するような文庫本1冊くらいの中編を書いてくれれば世のため人のためになったのに、と思ってしまうのだが、現実がそれを許さなかったのが残念。
とはいえ、本来「長い小説」を好む傾向がある私としては、この巻でも、大長編の終盤ならではの魅力(たとえば「ああ、あの人がこうなってしまったのか」みたいな感慨)もたっぷり味わえたのであった。
残すは1巻。訳者あとがきによれば、この夏の刊行をめざすとのこと。そして、恐ろしいことに、もう一度最初から読み返したい誘惑に囚われている…。その意味でも、やっぱり名作なんだな。