木村紅美『雪子さんの足音』(講談社)

著者は個人的な知人でもあり、応援の意味も込めて書きたい。

…のだが、読了して「これは売れないよな〜」と思う。これが芥川賞候補作に選ばれるというところに、むしろ芥川賞の良心を感じるくらい。

仮にこの作品が芥川賞を獲っていたならば多くの人の目に触れるのだろうけど、Amazonには「どこがいいのかわからない」という評価が並びそうな気がする。

でも結局のところ、「どこがいいのかわからない」のが人生なのだろうな、と思う。

基本的には青春の思い出話。でも、甘美な要素はほとんど一つもない。「あんなふうにするべきではなかった」という後悔はあっても、では別のようにしていればもっと素敵な何かが起きていたのかというと、そうでもない。「ああしなくてよかった」という納得はあっても、そのおかげで誰かが幸福になれたのかというと、そうでもない。

何年か前に読んだ『海炭市叙景』をふと思い出した。あと、だいぶ前に村上春樹『若い読者のための短編小説案内』で取り上げられている作品を片っ端から読んだのだけど(一つも読んだことがなかった)、そのあたりの一連の作品をふと思い出した。たまたま庄野潤三の『夕べの雲』をkindleで購入したので、次はそれを読もうかな。

※ つい「これは売れない」と書いてしまったが、何度か増刷がかかっているらしい。映画にもなると聞いた。良いことだと思う。

※※ 細かなことだけど、五日市街道とJR高円寺駅を結ぶ道を「坂道」と書くのが良い。「坂なんてあったっけ」と思うくらい緩やかなのだけど、疲れた足で歩いたことのある身にとっては、あれは確かに坂道なのだ。

 

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