木村紅美『夜のだれかの岸辺』(講談社)

美しい装幀だが、内容はあいかわらず(?)、読むのに覚悟を要するくらい、苦い。

これはあるいは著者の他のいくつかの作品にも共通することかもしれないけど、物語が進むにつれて、主人公とそれ以外の登場人物とのあいだで、世代や境遇の違いを超えて、その人格の境界が融合していくというか、自他の区別が少し溶け合っていくというか、そういう揺らぎが生じていくような感覚を抱く。そしてその揺らぎは、作中の人物と、読んでいる自分とのあいだにも生まれているように思う。まさに文学の文学たる所以なのか。

私はそれほど映画を観る方ではないので、作中での数々の映画作品への言及が響いてこないのが、(作品ではなく読者の側の)残念なところ。そのあたりに通じた人だったら、もっと深く味わえるのかもしれない。

前作『あなたに安全な人』も含めて、これもまたいずれ読み返すのだろうと思いつつ、そのハードルを超えるにもまた覚悟がいるのだろうなと…。

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