何かの折にこの作品が目に入り、新聞連載時に読んでいた記憶はあるのだが、ラストまで完走したのか自信がなくなり、手に取ってみた(諸般の事情で、新聞連載が完結する時期に数週間にわたって新聞購読を中断してしまう年があり、熱心に読んでいたのに結末を知らないという場合がけっこうある)。
政権・社会の右傾化や、いわゆるネトウヨなど非知性的な人々の群れについて、こうした小説の中で言及されているのを目にするのは端的に言って好きではない。そういう現実に日々接しているからウンザリというのもあるし、そうした直接体験に比べて、どうしても嘘っぽいというか、何を指しているのか一目瞭然なのにわざとらしい架空名が使われているときに感じるようなハリボテ感を受けてしまう。
というわけで、新聞連載時には、この作品のそういうところが鼻についていたような記憶があるのだけど、今回再読してみたら、意外に大丈夫だった。もはや、そんな不満を言っていられないほど、そうした空気が現実の中に満ちてしまっているせいかもしれない。
タイトルに示されるサスペンス的な部分もかなり読ませるが、価値が高いのはやはり長崎に関する叙述だろうか。