というわけで、佐藤さとるの手になる本シリーズもこれが最後。
「せいたかさん」が「小さな国」を見出すより前、人間で言えば、記紀時代から江戸時代くらいまでを描く昔話集。コロボックルの創世神話に始まり、人間と深く関わることを避けるようになった事情を示唆する残念な逸話がある一方で、人間との親密な関係を物語るエピソードもある。人間の側の有名な昔話のコロボックル版といった趣向もある。
その中で印象的なのが、伝説的な名工・左甚五郎と一人のコロボックルの友情を描いた作品「ふたりの名人」。作者の佐藤さとるは、簡単に言ってしまえば性善説というか、いやむしろ「世界は根本的には善きものであってほしい」「ひとはこうであってほしい」という願いを込めてこのシリーズを書いているように思うのだが、それがよく現れているのが、この作品の脇役として出てくる「宿屋の主人」。ジンゴ(後の左甚五郎)が作ったカラクリ細工を買い取って宿賃をタダにしてくれただけでもずいぶん親切だと思うのだが、後にそのカラクリ細工が高額で売れたからと言って、その一部(といっても大金)をジンゴに届けに来る。ジンゴは「あれはあなたのものになったのだから」と受け取ろうとしない。人間はそのように親切で無欲であってほしい、という作者の思いが表われているように思うのだ。
せっかくなので比較しておくと、いぬいとみこの「小人たち」両作では、世界には根本的に邪悪な存在があり、人間は(小人たちよりは強いとはいえ)弱く愚かなものとして描かれているように思う。ただし、その弱さや愚かさには、勇敢さや悔い改め、救済の希望が対置されているのだが。
「あとがき」で、前作『小さな国のつづきの話』を書くにあたって頭を悩ませた点(先の感想で触れた、1~4作目を実在させてしまうことなど)が詳しく語られているのも興味深い。この文庫化されたシリーズでは、どれも「あとがき」と「解説」が実によいのだ。
有川浩に引き継がれた新作を読むかどうかは迷い中。