佐藤さとる『小さな国のつづきの話』(講談社文庫)

子どもの頃に読んだのは4作目までなのだが、やはり「つづき」も読んでみる。

作者が「あなたが信じるかどうかはさておき、これは本当の話なのだ」というスタンスに徹するところに驚く。本当の話なのだから、「作者」自身も実在する。佐藤さとると名乗りはしないものの、「せいたかさん」とどういう関係であるかも明かされる。何しろ、この5作目では、それまでの1~4作目が実際に本として出版されており、主人公が働く図書館に配架されているのだ。つまり、私たちが『だれも知らない小さな国』以下の作品を読んだこの世界と作中の世界は、そのまま地続き、同じ世界なのである。

以前、映画『シン・ゴジラ』を観たときに、登場人物の誰もが『ゴジラ』という映画を知らないことに猛烈に違和感を覚えたのを思い出す。実際に私たちが生きているこの世界には、かつて『ゴジラ』という映画が存在したのだし、私たちはそれを観ているのだから、『ゴジラ』という映画が存在しなかったかのように描かれる『シン・ゴジラ』は、虚構であることを大前提とした娯楽作品の枠から一歩も踏み出さない、いわば消毒済みの無害な作品なのだ。

佐藤さとるのスタンスは逆である。あの1~4作目の「本」は実在する。物語の中でも実在する。つまり、(いろいろ情報を伏せている部分はあるとはいえ)コロボックルも実在する。何のためにこのシリーズが書かれたのかという理由も、実に整合的に説明される。

そして、この第5作目の優れているところは、たとえ「小さな国」(恐らく作者の出身地である三浦半島と推測される)とは離れた場所に住んでいる読者にとっても、ひょっとしたら自分の身近にもコロボックルのような小人がいるのではないか、と期待を持たせる展開になっている点だ。

とにかく、伏線の張りかた、回収のしかたが実に緻密である。子どもの頃読んだときには、そんなことには気づきもしなかった。

なお、第3作『星からおちた小さな人』の感想で、いずれおチャ公とおチャメさんが結ばれるような未来があればいいな、と書いたのだが、残念ながら、そういう展開にはならなかったようである。

 

 

 

 

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