しばらく前から読み始めてはいたのだが、先に読んだ『スポーツ・アイデンティティ』で著者の名前が出てきたこともあって、一気に読了。
競技スポーツ界における筋トレ(ウェイトトレーニング)偏重の風潮に異を唱える本なのだが、単純に「筋トレはダメ、やらない方がいい」と断じるものではない。むしろ、特に序盤では、著者が若きラグビー選手として熱心に筋トレに励んだ時期に味わった筋トレの楽しさや喜びが実にイキイキと描写されていて、読んでいるこちらも「よっしゃ、腕立て伏せやるか」という気になってくるのが面白い。そういう点も含めて、著者の筋トレに対する視線が非常にフェアであることが、この本の価値を高めている。実際、「それでも筋トレが必要なら、こういう風に取り入れれば弊害も抑えられる」という処方箋をきちんと提示しており、「筋トレはいますぐ止めなさい」といった安易な内容にはなっていない。つまりこの本は筋トレの守るべき領分をきちんと画定し、その「越権行為」を戒めるものであって、要はカントの主著でいう「批判」の意味における「筋トレ批判」なのだ。
後半は「筋トレ批判」から少し離れ、筋トレによって失われる・損なわれる可能性の高い「身体知」を細かく見ていく構成。どこまで著者のオリジナルなのか、単に著者がこれまで学んできた内容を整理した部分が大きいのではないか、という印象もあるが、いずれにせよ興味深いことは間違いない。日常の立ち居振る舞いの中でも、そうした身体知を感じ、高める道は豊富にある、というのは、恐らく武道の修行にも繋がる考え方なのだろうと思わせる。