インパクトはあるし、決して平凡な小説ではないし、面白いのだけど、では人に勧めるかと言われると難しい作品。拒否感のある人は全然受け付けないのではないか。
東京の「地霊」が憑依した(というか、人格として表出した)6人の登場人物が、自分が「地霊」の顕在化であった時期について思い出を語るという体裁(後から調べたなどの形で、それ以外の時期について語られる部分もある)。
…と書いても何が何やら分からないだろう(笑) この書評は優れているが、本作を読んだ後だからそう思えるのであって、これだけ読んでも何を言っているのか分からないかもしれない。『福翁自伝』のパスティーシュであるという指摘は、なるほど。私は『福翁自伝』をたいへん面白く(エンターテイメントとして)読んだので、本作にもわりとすんなり入れたのかもしれない。
やや仕掛けに溺れているような印象であり、「あれは私だ」や複数の「私」が遭遇する場面は、途中までは「おおっ」と思わせるが、あまりにも多用されるのでやや食傷してくる。それにしても、そういう仕掛けにまで馴染んでしまい食傷などと言い出すのだから、読者の適応力というか消化力というのは、恐るべきものだなと我ながら思う。
…と書いても、伝わらないだろうと思う。読むしかない。が、読後感はあまりよろしくないだろう。「読後感が良くない」というのは、私にとってはその本をけなす理由にはあまりならないのだが、とはいえ、強いてお勧めはしない。
しかし、オリンピック開催が強行され、その結果次第によっては、これを読んでいるかどうかで、その状況の捉え方がけっこう変わってくるかもしれない。