時節柄、カミュ『ペスト』を再読しても良かったのだが、せっかくなので(?)未読のこれを読んでみようと。
関東のある地方都市で起きた、劇症肺炎を伴う感染症の発生と、その拡大を食い止めるために奮闘する疫学調査員や研究者、現場の医師・看護師、保健所職員を描く作品。
感染症のアウトブレークをリアルタイムの現実として生きている昨今、小説として「面白く」するための演出(怪しい研究所、謎の少年たち…)は不自然に感じられてしまうが、こうした状況で読むのでなければ、もっとドキドキできたのかもしれない。もっとも、今般のCOVID-19にしても、研究所からのウィルス漏出の可能性を云々する連中はいるのだから、現実も小説も大差ないとも言える。
この作品は感染源(「元栓」)や原因ウィルスを特定するのに四苦八苦する話なので、その段階がほぼ終ってから感染拡大のフェーズに入っている昨今の状況とはだいぶ違うが、それでも「疫学」という考え方の一端に触れることはできる。
謝辞には、いままさに渦中の人である西浦氏の名も見える。
特に予備知識なしに読み始めたのだが、読み進めるうちに「あれ、この場所って…」と思い始める。感染の発生地・中心地として舞台になっているのは、子どもの頃、毎年のように夏休みに家族で訪れていた場所だった(県・市までは恐らく特定容易だが、地区の名前はさすがに変えてある)。風景描写が懐かしくもあり、フィクションとはいえ悲惨な状況となっているのが辛くもあり。