8月の終わりに読了。
吹きっさらしの丘の上の一軒家に引っ越してきた夫婦+子ども3人の一家の淡々とした日常。緑豊かな周囲の環境が確実に失われていく予感(一部はすでに現実)はあっても、特にそれに対する思いを綴ることはなく、ただ、変化の訪れだけが予告される。
恋愛、冒険、死、挫折、葛藤、不和、陰謀……そういう何らかのドラマになりそうな要素はほとんど何一つない。ただ、数年にわたる叙述のなかで、子どもたちは確実に成長していく。そういう作品である。まさに冒頭で萩の木を見て「こんなに大きくなったのか」と主人公が嘆声を発するように。
むろんこの作品も現代にあっては「どこがいいのか分からない」という人がほとんどだろう。というか、こんな作品を読む人じたいがほとんどいないのではないか。
末尾の「著者から読者へ」というあとがきによれば、著者が家族と住んでいた多摩丘陵(生田)が舞台であるようで、設定としては私の子供時代よりしばらく前だろうが、似たような環境は私の周囲にあった。今はもうない。
作品の評価には関係ないが、主人公である大浦が戦時中に父母に書いた手紙のなかに「私はラグビーをやります。すこぶる愉快であります」という一節があったり、何年か前に話題になった『BORN TO RUN~走るために生まれた』で紹介されていたタマフマラ族の話が出てくるのも、ごく個人的にではあるが面白かった。