プルースト『失われた時を求めて(12)』(吉川一義訳、岩波文庫)

新訳の最新巻が出るのを待ちかねて書店に予約し、5月に買ったのだけど、ようやく読む(笑)

恋や記憶や忘却を中心に、人間の心理の精細な地図を狭く深く突き詰めようとしているという印象。だからたとえば愛する人を失ったときにこの作品を思い起こすと、これから自分の心はこんなふうな過程をたどっていくのだろうなぁという、ちょっと引いた視点からの見取り図が得られて、少し辛さが緩和されるのではないかという気がする。まぁこの作品に限らず、小説を読むことの効果(良かれ悪しかれ)の大きな部分はそういう想像力が養われることなのだろうけど。

それにしても、この巻で過剰なほど綿密に描かれている心の動きだけでも、優に1つの長編小説が構築できるくらいの濃密さ(そもそもこの巻だけでも600ページあるのだから当然なのだけど)。実に的確で「さもありなん」と膝を打つ描写も多々出てくるので、優れた作品ではあるのは確かだけど、「ぜひ読むといいよ」と人に勧める気には決してなれない…。

この作品を読んでいると、そこはかとなく「無敵感」が味わえる。これを読み通しているオレに読めない小説はない、という読者としての無敵感と、「ここはもっとこうすればいいのに」という改善や「こういう部分は別のあの作品のほうが優れている」という比較の可能性を全く与えないような、唯一無二の作品としての無敵感。「いや、いくら名作だからって、こんなの書こうとする奴は他にいないよ」と言う気がする。

残りはあと2巻。早く続きが読みたいのは事実。

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