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中井亜佐子『日常の読書学:ジョゼフ・コンラッド「闇の奥」を読む』(小鳥遊書房)

先日『闇の奥』を読んだのだけど、何がキッカケで読む気になったのかまったく自覚していなくて、ひょっとして、これの書評でも読んで気になったのかな、と思って本書を手にとった次第。実際には理由は違ったような気がするけど、ひとまずこの本もよい本であった。

以前に読んだ『批評理論入門-「フランケンシュタイン」解剖講義』と同様に、一つの作品をいろいろな方法で読んでいく試み。「日常」というタイトルのわりに、けっこう専門的な「批評」としての読みの比重が大きいのがちょっと残念な気もするが、それはそれで面白い。

しかし、ある「読み方」を選択することが、それ以外の読み方に対する否定にならないようにするのは、けっこう難題だよな…と思う。それにしても、たとえば欧米先進国がアジアやアフリカを蔑視していた過去というのは、そちらの人間にとってもこちらの人間にとっても、もはや拭い去ることのできない歴史で、誰もそこからはのがれられないのだよなぁと、昨今のご時勢を見るにつけても、なかなか辛い現実であるように思う。もちろん、それに耐えられずに修正主義に走ってしまう心弱い人たちもいるわけだが。

宮沢和史『沖縄のことを聞かせてください』(双葉社)

良さそうだと思って買ったのに「積ん読」状態になっている本を片付けていく年にしようと思っていて、その第一弾。

12月に書いたことだが、沖縄について「恥ずかしくて行けない」という意識を抱いてしまう私のような人間から見れば、ある意味、その先駆者的な立場にある宮沢和史(THE BOOM)の対談集。対談部分も、相手の人選を含めて実に読み応えがあるのだけど、序曲・間奏曲的な宮沢自身のエッセイ部分もとてもよい。

THE BOOM「島唄」を知らない人はほとんどいないと思うのだが、20世紀終盤くらいに唄三線を始めた場合、

(1)「島唄」を聴いて、ああ、沖縄の唄っていいなぁと思う
(2)唄三線を始める
(3)「『島唄』なんて、あれはヤマトの人間が作った紛いもので、本当の島唄っていうのはね~」などと思うようになる(口にする人もいる)
(4)もう少し稽古を積む
(5)「そうか、『島唄』のイントロって…」などと思うようになる
(6)「『島唄』ってきちんと民謡をリスペクトしているよね」と思うようになる

みたいなパターンをたどる人がけっこういたのではないか。たぶん(3)で止まってしまった人も多いだろうけど。

本書には、その「島唄」が作られヒットしていった頃の経緯が詳しく書かれていて、上の流れで言えば、(7)のキッカケになるような気がする。

ちなみに対談部分で言えば、平田太一の章、「斜め」の立ち位置にいる大人についての言及が特に印象的だった。

ジョゼフ・コンラッド『闇の奥』(光文社古典新訳文庫)

2024年一冊目は、これ。

例によって、どういうキッカケでこれを読もうと思ったのかは忘れてしまった。『地獄の黙示録』の原作というか下地になった作品として有名。この版の解説にあるように、オープンクエスチョンのままというか、明快なカタルシスのないまま終る、熱病に浮かされたような印象を与える小説のように思える。

「話の意味は、胡桃の実のように殻の中にあるのではなく、外にある」(15頁)

そういえば、「日常の読書学:コンラッド『闇の奥』を読む」という本が昨年初めに出版されたらしい。もしかしたら、この本の書評を読んで、まずこの作品を読んでおこうと思い立ったのかもしれない。