藤崎慎吾『我々は生命を創れるのか-合成生物学が生み出しつつあるもの』(講談社ブルーバックス)

『批評理論入門』を読んで『フランケンシュタイン』を読む人もいれば、私のように『批評理論入門』を読むための予習として『フランケンシュタイン』を読む人もいるだろう。しかし『フランケンシュタイン』を読んで、本書を読もうと思う人は少ないのではないか。何しろ『フランケンシュタイン』では、「いかにして生物を生み出すか」自体は重要なテーマではないからだ。

とはいえ、図書館に行って、習慣でブルーバックスの棚を眺めているうちに、こんなタイトルの本が目に入り、『フランケンシュタイン』にも言及されていると分かれば、つい読んでみたくなるではないか。え、ならない?

もちろんこの本では人間並みの生物を作ろうなどという話ではなく、紹介される科学者たちが考え、試みているのは、そもそもこの地球上にどのように生命が誕生したのか、そして生命と呼びうる「細胞」を人工的に作ることはできるのか、といったレベルの話だ。

ブルーバックスのシリーズは、最初の導入部は読みやすいのに、だんだん話が難しくなって、最後の5分の1くらいはちんぷんかんぷん、という本がけっこう多いのだけど、本書の著者は、この分野を専門に研究する科学者ではなくサイエンスライター兼小説家なので、最初から最後まで(もちろん部分的には難しい話も出てくるのだが)楽しく読ませてくれる。ぬいぐるみや自動車などにも「いのち」を感じる私たちは何をもって「生命」と考えているのか、というところから始まって、ビッグバン、パリティ対称性の破れにまで話が及んでしまうのだから、化学・生物学は言うまでもないとして、哲学や社会学から物理学に至るまで、まさに人間の知の領域を縦横無尽に駆けめぐるように「生命」が語られている本である。

2019年8月に出版された本だが、もちろん当節流行りの(?)ウイルスやワクチンについて考える際にもベースになる話だ。

というわけで、著者の願いに応えて、こう書いておかなければなるまい。

「これ、すごく面白いよ」

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください