メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』(小林章夫・訳、光文社古典新訳文庫)

この次に『批評理論入門』を読む予定なのだが、その題材として取り上げられている作品ということで、ひとまずこっちを先に読んでおかなきゃと思うのが似非教養主義者の悪い癖。

マッドサイエンティストが作ってしまった醜悪にして凶悪な人造人間である、この怪物の名前を知らない人はいないだろう。

…本当に?

いや、私もそう思っていた。だが、この作品を読みはじめると(いや読み終わっても)、自分がこの怪物の名前を「知らない」ことに気づかされる。

朝日新聞の読書サイト「好書好日」の編集長を務める加藤修は、学生時代、特にスパイシーでも何でもない、昔ながらの洋食屋的なカレーの香りをかいだだけで汗をかく私のことを笑って、「パブロフくん」と呼んだ。だがパブロフは犬を使って実験した研究者の名前であって、条件反射を示した犬の名前ではない。

それと同じように(同じか?)、フランケンシュタインというのは、件の怪物を作ってしまった科学者の名前であり、実は怪物には名はないのだ。そのことを知るだけでも、この作品を読む価値はある。

…などと冗談めかして書いているが、真面目な話、実際のところ、読む価値のある作品だ。設定・進行にやや無理を感じる部分はあるし、19世紀初めに書かれたものなので古めかしさはあるのだけど、とはいえ、この作品の主題が現代のさまざまな問題に通底していることは一読して明らかであるように思う。まぁこの作品に対してどういう読み方があるかは『批評理論入門』が徹底して明かしてくれるだろう。

 

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