著者がいて、出版社があって、「取次」があって、書店があって、自分のような読者がいる。そういう「本」をめぐる構図はいちおう理解していたものの、具体的にどう本が動いているのかとか、金銭的な条件などには疎かった。
その意味で、将来的に出版社を起こして、とかそういうことはまったく考えない、単に読者としての立ち位置からしても、著者の個人的な体験というリアリティを伴いつつ、その部分がまず垣間見られたのは面白かった。
さて、そんな基本的な話は導入部分にすぎず、本書のテーマは「トランスビュー方式」を軸とする、新たな出版流通の試み。
伝統的な出版→取次→書店という仕組みは、体力のある大手出版社・大手取次の、いわば「権力」のもとで、多少の不公平感や不満はありつつも、さほど「志」の高くない書店や中小出版社でも何とかやっていける、そういう生態系。
それに対して、トランスビュー方式など「直」取引は、「売れる」本ではなく、「売りたい」本を刊行したい、「売りたい」本を並べたい、「志」の高い出版社や書店のためのシステムのようである。
どんな本を売りたいかいちいち選んで、注文から何から個別の出版社といちいちやり取りするほど気合いの入った書店なんて、そうそうない、というのが現実だろう。しかし、そういう、さほど「志」の高くない書店でもあっても生き残っていける、ある意味で優しい従来のシステムが先細りになっていく状況において、それが唯一無二のシステムであれば、「志」の高い書店や出版社も、他に本の流通を実現する手段を持たずに、道連れに滅びてしまうことになる。
その意味で、「直」は、必ずしも現行の取次システムに取って代わるものではなく、それを補完したり、いざというときに逃げ込めるような、そういうオルタナティブなのだなぁ、というのが本書の読後感。
そんな私がこの本を読んだ翌日、明らかに「志」の高い駅前の書店で買った本は、1冊が講談社文庫(大手出版社だから当然取次経由)、もう1冊が、裏表紙を見れば、ああやっぱり「トランスビュー取引代行」のシールが貼られていたのでした。
ちなみに、私のような門外漢の読者にはさほど必要ないのだけど、索引がしっかり付いているところもこの本の美点の一つだと思う。