先日の神奈川県の障がい者施設での殺人事件を機に、放置してあったこの本を読んでみた。何かにつけて匿名化の傾向が強まる日本の報道に比べて、「こんなのあり?」と思えるようなイギリスメディアによる報道。必ずしも「英国式」のほうが優っているという話にならず、揺れ動いているところも面白い。
売春婦連続殺人事件、極右政党や警察への潜入取材、乱痴気パーティの惨事、難破船の宝物略奪……と、第一章で紹介される事件(&その報道)の例が実にカラフルで面白い。
少し前に読んだ安田浩一『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』もそうだったけど、ジャーナリストがジャーナリストに取材するという構図、あるいは、「一つの事件がどのように報道されていくのか」という経緯がよい。そもそものしつらえがメタな構造になっている。
で、この本がジャーナリストではない人間にとっても面白いのは、もちろんニュースを消費するという立場で我々もジャーナリズムの当事者であるからというのはもちろんなんだけど、終盤の「誰もが少しずつ『公人』」という節に的確にまとめられているように、一人一人の社会への関与のありかた、という原理的な部分に触れられているから。それこそ、「投票に行くのか棄権するのか」「デモや集会に参加するのか距離を置くのか」みたいな部分にも関係してくる話である。
オススメです(放置していたけど)。
情報源: Amazon.co.jp: 英国式事件報道 なぜ実名にこだわるのか eBook: 澤 康臣: Kindleストア