このあいだダークプールとHFTをテーマとする論文のトライアル翻訳が来たので……と書いて、「ああ、そういう話ね」と察してくれる人は私のFacebook友達のなかにも数人しかいないと思います。
で、もちろん私もちんぷんかんぷんだったわけですよ。 トライアルなので時間の余裕もあまりなく、ネットで調べた細切れの知識をもとに苦しみつつも何とか仕上げて提出した後、その方面に強そうな知人に「こんな原稿がありまして」と愚痴ったところ、彼がこの本の名前を挙げたので、読んでみました。
いやぁ、なかなか面白かったです。この本を読んでいたら、先だっての原稿も「ああ、あの話来たー」みたいな感じでやれた気がします。やはり、こういうちょっと専門性の高い新しモノにも、もう少し気を配っていないといかん。まぁ、今思うと「あそこは失敗したな」と思う部分もあるとは言え、それなりに頑張って訳していたかな(笑)
タイトルにある「フラッシュ・ボーイズ」(といっても「本人たち」は登場しないのですが)の手口は、自分が特権的に他人よりも早くアクセスできる市場で小口の売買注文を出して他の投資家の動向を探り、その情報がまだ行き渡っていない他市場に「先回り(フロントランニング)」して、その動向に対して有利になるような取引で稼ぐ、という方法。
こういう、情報入手速度の差を利用してアンフェアに稼ぐ(あるいは露骨に詐欺をやる)というのは、映画『スティング』あたりにも通じる話で、昔も今も変わらんなぁという気もします。 しかし、こちらは何しろ現代なので、その「他人よりも早く」とか「その情報がまだ行き渡っていない」という情報のズレの尺度がマイクロ秒単位の話なのです。マイクロ秒ってことは、つまり1億分の1秒だか10億分の1秒だか、そんなところです……と、もはや1桁違ってもどうでもいいくらい(笑)身体的な実感のない時間なのだけど、それが億ドル単位の得失につながっていく、という話(あ、副題に「10億分の1秒の男たち」とあるから、10億分の1秒でしょうね>マイクロ秒。しかし「男たち(ボーイズ)」とは限らんよなぁ、というのはまた別の話)。
何か、当たり前ですが、先日読んだ『不屈の棋士』の人工知能(将棋ソフトウェア)あたりにも通じていく世界です。
で、この本はそういう方法は全然フェアじゃないだろう、と感じて、そういう「捕食者(predator)」の暗躍を許さないような、新しい取引所を設立しようとする人物を中心としたノンフィクションなのでした。
しかし、マーケットそのものが構造的にアンフェアならば、資本主義に大義はないよね……。
情報源: Amazon.co.jp: フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち 電子書籍: マイケル・ルイス, 渡会圭子, 東江一紀: Kindleストア