評価の分かれそうな本だが、一読した感想としては、これはかなり面白い。
そもそも表題が誤解を招く。「現代経済学」となっているし、ソフトカバーとはいえ装丁も黒基調でなかなか厳めしいのだが、それほどアカデミックな雰囲気はなく、かなり取っつきやすい「経済入門」である。また「現代」と銘打つほど直近の事象が中心になっているわけでもなく、古代中世にまで視野が広がっている。本来は、物理数学が専門の著者が、「科学者」があまりに経済に疎いことを憂えて書いたものだが、別に科学畑の人間でなくても経済に苦手意識がある人が読むにはふさわしい。ただし、はじめに著者も書いているように、「本を読むこと」に抵抗がないことが前提である。
で、アカデミックでない分、経済を少し囓った人にとっては(いや私のような者でさえ)「え、それは言い過ぎじゃない?」とか「え、○○は無視ですか?」と言いたくなるような部分がそこかしこに見られる。それどころか、たとえば、株式会社/市場については一言の言及もないし、リスクについての考え方もほぼ皆無である。そんな(現代)経済の論じ方がありうるのか、とも思うが、わりときちんと成立している。著者はそれらの点を理解していないのではなく、あえて枝葉として無視する方が堅牢な構成になると計算しているのだろう。「木を見て森を見ず」という言葉があるが、その反対に、森さえも見ず、森を支える土壌や空気などを論じている印象か。ジャレド・ダイヤモンド『銃・病原菌・鉄』『文明崩壊』あたりを面白いと思った人には向いているような気がする。
新しいところでは仮想通貨/ブロックチェーンに関する章は、非常に分かりやすい。以前読んだ岡嶋裕史『ブロックチェーン』(講談社ブルーバックス)も優れていたが、むしろ本書の該当部分を読んだ方が手っ取り早い気がする。ビットコインを金本位制と絡めて語るところは秀逸。だから「マイナー」なのね。
ただし、「解決策」を探る最終章は薄っぺらという印象。さすがにそこまでは荷が重いか。
というわけで、トンデモ本と見なす人もいるだろうなとは思いつつ、これはこれで十分に良書だと思った次第。アダム・スミス、ケインズ、マルクスあたりはやっぱり読んでおきたいなぁと思わせるだけでも意味はあった。