人工知能の研究や開発を通じて「知能(知性)とは何か」という問いに取り組んでいれば、必然的に哲学的な思索にはまり込んで行かざるをえないだろう、と思う。
この本にも、そういう切り込み方を期待したのだけど、やや物足りない印象。全6回のワークショップのまとめのような本だから、ダイジェストっぽくなってしまうのは仕方ないのかもしれない。恐らく、ワークショップの「現場」はもっと躍動感のあるものだったのだろう。
哲学というのは、私たちが日常を生きている足場を揺るがせるというか、見てはいけない深淵を覗き込ませるような部分があるものだが、この本にはあまりそういうヤバさ=魅力が感じられず、いいとこ取り的な扱いになっているのも、やや不満が残る。特に現象学の扱い方に何やらフワフワした曖昧な印象を感じてしまったのだが、現象学って本来はひどく厳密でギリギリまで追い詰める思索であるように思う(先に紹介した『フッサール 起源への哲学』が巧みに紹介しているように)。
ただ、その分、というべきか、難解そうな近現代の思想がわりと取っつきやすく感じられて「読んでみるか」「読み直さないと」と思えるのはありがたいのだが……。